器用貧乏の闇

この記事は、「ちはやふる」という漫画を読んだ個人的な感想です。

前回は、「ちはやふる」で取り上げられている競技かるたの技術のひとつ、『感じ』とフォニックスの関係について書きました。

あまりにも人気が出て、アニメや映画にもなったこの漫画。なんと私はどれも見てなかったのですが、今になってご縁があり発行されている全巻を読み通してみました。


あらすじをざっくりと説明すると、『競技かるた』に情熱をかける男女の青春漫画です。
ざっくりすぎるかな?

で、私が今回語りたいのは登場人物の一人である、太一くんです。

太一くんと主人公の女の子が小学6年生の時に、一人の男の子が転校してきました。その男の子は、競技かるたがとても上手。主人公も体験してみて、その面白さに一気にのめりこみます。そして、太一くんも主人公の熱意に引きずられるように競技かるたを始めることになります。

なにせ太一くんは、主人公のことが大好きなんです。

転校してきた男の子は、小学校卒業と同時にまた引っ越していってしまいます。
主人公は転校生への憧れと共にそのままかるたにのめりこみますが、太一くんは中学生の間に自分の才能に限界があることに早くも気づきます。

競技かるたを教えてくれた男の子は、全国で学年1位になるような子でした。主人公も、どうやら天賦の才を持っているようです。
そして二人とも、かるたにかける情熱がけた違いに大きい。


高校生になって主人公と一緒にかるた部を創設して支えていく太一くんですが、かるたを続けていくうちにだんだんと苦しくなっていく自分に気づくことになります…

そしてなんと、いわゆる「闇落ち」と言うんでしょうか、ダークキャラに変わっていってしまいます。

私、この流れがめっちゃわかるなあと思いました。
漫画を買う前にネットで口コミを見たら、太一がどうしてこう変化するのかわからん、という声もけっこうありましたが…

太一くんは、器用貧乏として描かれています。
いや、「貧乏」というと語弊があるかな。今だったら、オールラウンダーとでも言いますか。でも今回はネガティブな面を取り上げるので、器用貧乏を使います。

器用な人って、それは一つの才能ですが、たいてい上達するような努力もします。それも合わせての器用なんだろうと思います。

ただ、ある程度こなせるからか、ものすごい熱量をそそげない面もある。
1つダメでも他があるから、持続力に欠けるところがある。
回りが見えるから、自分の力量を決めつけがち。
1つのことに情熱を注ぐ人に対する憧れがある。

太一くんが大好きな主人公や、主人公が胸ときめかせたままの転校生は、「天才肌」かつ「人並外れた情熱をそそげるかるたバカ」。
どう頑張っても追いつけない人たちと深くかかわっていくことになるので、そりゃ太一くんもやるせなくなるでしょうよ。

でも根はいいやつだから、闇から戻ってきたりもする。
正攻法ではないかもしれないけど、とった方法は努力の一つ。自分のスキルを高める努力をやり尽くしたと感じたら、あと勝つためにできることは「相手が力を出せないようにする」ことだと、勝つことにこだわるがゆえに考えついたのでしょ。
人間なんてポジティブな面もネガティブな面も普段からあるのだから、その時々でどちらが強く出るかだけなんだし。

ちなみに、私自身が親から「お前は器用貧乏でだいたいのことは上手くこなすけど、才能を伸ばすのは一つにかけている人が強い。だから将来は官僚向き(←この結論もすごいけど)」とか言われてました。
昭和半ばの話なので、今とは違う価値観が入っているかもしれませんがそこはご容赦ください。

2度くらい言われただけだけど、ものすごくしっくりと納得できたし頭に残ってます。

「ちはやふる」はまだ完結していませんが、今のところで私が大好きなのは、40巻です。39巻あたりも、太一くんの闇がきわどくて好きだけど。


40巻では、恋のライバルでもある元転校生と競技かるたでトップレベルの対決をして、太一くんは破れます。その後、元転校生が「太一は他にもいろいろできたのに、自分がやったことがなくておれが一番得意だったかるたをしてくれた」と言うシーンがあります。

そう、そうなのよ。
自分が一番得意とはいえないジャンルで、太一くんは悪戦苦闘を続けてきたのよ。それにちゃんと気づいた転校生もエライ。

高校に入る前には、自分のかるたの才能をある程度見限っていた太一くん。それでも主人公とかるた部を作ったのは、主人公の夢を応援するためだもん。ほんっと、いいやつなんですよ。
ここ、ほんと泣ける(´;ω;`)

器用貧乏だから、ある程度やったらある程度はできちゃうから、ある程度は頑張れる。
その先も頑張ったのは、主人公のことが好きだったのと、でもやっぱりかるたも好きだったんじゃないかなと思うんですけど。
がんばってもがんばっても狙った結果をどうしても出せず、苦しかったよね、太一くん。

てことで、めっちゃ感情移入したまま最後まで来ちゃいました。

なんでもこなせていいなあと言われがちな器用貧乏さんにも、いろいろ悩みはある。
たまには闇に落ちることもある。
でも、持ってる能力はそれぞれだから、それこそオールラウンダーとして生かせる部分を生かしていけたらいいですね。