『奇跡の脳』から見る、発達障害の世界

最近読んだ本、『奇跡の脳』

内容は、アメリカの脳科学者が37歳で左脳での出血により脳卒中になったときの「症状に気づいてから日常生活ができるようになるまでを振り返った本」です。

なんとなく興味をもって読み始めてびっくりしたのが、これまでに聞いたことのある発達障害の人が示す・こう感じていると聞く感覚がたくさん書かれていること。

例えば——-

〇視覚
わたしたちが見る世界は振動する分子や原子からなるピクセル(画素)に分かれていて、異なる周波数で振動する原子は脳により色として識別され、物体の境界線としても認識される。書かれた文字を正常に認知できなくなる症状は、この機能が一部変わってしまったことによる。

<著者の症状>
・文字は単なるシミに見え、それが何かを表す・発音の元になるという意識を持てなかった
・光が強すぎる刺激になった
・外界が点描のように見え、色の識別や物体の識別ができなくなった(それが動いた初めて存在に気づく)

〇聴覚
空気中の分子が衝突することにより生じるエネルギーの波長が鼓膜を揺らすことにより、音を聞くことができる。

<著者の症状>
・すべての音が無秩序な雑音、爆音に聞こえた
・音の組み合わせの中から意味を見出すことができなかった

〇嗅覚
受容器に対応する粒子がかすめたりはまったりすると感じる。

<著者の症状>
著者が感じたこととしては書いてなかったように思いますが、「本来の能力が失われると匂いがとてもきつく感じられ、息をするのも辛くなる」とありました。

〇触覚
皮膚の表面は細かく専門的に区分けされ、冷たさや圧力を感じる部位が点在している。

<著者の症状>
温度も圧力も感じず、自分の境界線が分からない。他から分離した個体として自分を感じず、宇宙とつながった流体のように感じる。
著者はこれを、【涅槃(ニルヴァーナ)ではないか】と書いています。

〇その他
著者は、右脳は「物事同士の関係をとらえる、正しい方法も規則も規制も持たず、瞬間のみが存在する」、左脳は「右脳の拾った情報を時間的に連続したものにつなぎ合わせる、細かく説明し定義し分類する」としています。

——-どうですか?
発達障害について学んだことのある方なら、著者の症状に思い当たることがあるのではないでしょうか。
私はこの本を読んで、発達障害はまさに「脳」「神経発達」に関わることなのだなあと、改めて感じました。

あとは個人的な興味ではありますが、【触覚】【その他】に関わる部分もとても面白い。
自分自身も含めた物体の切れ目が分からず、全てが流体のようで、物体は単に密度が濃い部分である、という感覚は、私の好きな福岡伸一さんが『動的平衡』で提唱している捉え方と一緒です。

著者は、脳卒中が起きて左脳の機能が衰えた時に「穏やかで、守られている感じで、祝福されて、幸せで、そして全知であるかのような感覚」を持ったようです。それはたぶん悟りと言われるものだったり、スピリチュアルな体験の元になっているものではないかと私は思います。
右脳はいつでもこの状態にあり、左脳の働きを何かしらで緩めることができたら到達できる境地なんでしょうね。

また、時間的感覚が弱かったり出来事を整理するのが苦手というタイプの人は、右脳的感覚が強いのが左脳の機能が偏っているのかもしれないと考えることができます。

こんなふうに、すでに現象として知っていることではあっても「左脳右脳の働きがもともと△△で、左脳の機能が弱まることで□□になる」と原因(の可能性があること)を知ることができると、なんとなく対処方法の糸口にもなる気がするのです。少なくとも、参考にはなるはず。

そもそもこの本は、脳卒中になったときに早く気付くために、また回復するときの参考にと書かれています。その面でも、関心のある方はぜひ読んでみてくださいね!